大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)99号 判決 1969年5月27日

上告人

岡本シズエ

ほか五名

代理人

野田孝明

ほか三名

上告人補助参加人

武藤幸治

被上告人

岡本ヨシエ

ほか五名

山泉代理人

三原道也

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人野田孝明、同山本進一、同山崎賢一の上告理由第一点、および同斉藤孝知の上告理由第二、三点について。

亡岡本友太郎が亡向ケサの承諾を得て、本件係争物件を右ケサ名義をもつて競落した旨、および被上告人山泉真也が同女の相続人鶴治からこれを善意で買い受けた旨の原審の認定判断は、原判決(引用の第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠に照らして肯認することができ、原審の確定した右事実関係に対し通謀虚偽表示に関する民法九四条二項の規定を類推適用すべきものとした原審の判断は、正当である(その引用する当裁判所の判例参照)。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、原審の専権に属する証拠の評価ないしは事実の認定を非難するか、原審の認定にそわない事実を前提とする独自の見解であつて、採用できない。

上告代理人野田孝明、同山本進一、同山崎賢一の上告理由第二点第一について。

所論通謀虚偽表示の撤回に関する主張は、上告人が原審において主張しなかつた事柄であるから、原審がその点について判断しなかつたのは相当である。のみならず、仮りに、ケサと友太郎の間において所論のような通謀虚偽表示の撤回があつたとしても、虚偽表示の外形をとり除かない限り、右虚偽表示の外形を信じその撤回を知らずに取引した善意の第三者にはこれをもって対抗しえないと解すべきであるから、この点に関する所論は採用できない。所論の事実関係が長期にわたって継続していたとの事実も、右判断を左右するものではない。なお、原審は、被上告人山泉真也の代理人重利は、その所有名義人が向ケサであること、およびその所有者は当時右ケサの相続人である鶴治であることを確認したうえ、本件係争物件を買い受けた旨を判示したに止まり、右物件が当時鶴治の所有であつた旨を判示したものではないから、その判断に所論の理由齟齬の違法はない。したがつて、原判決には所論の違法はなく、所論は独自の見解であつて、採用できない。

同第二について。

所論は、要するに、被上告人(参加人)は、本件係争不動産について所有権取得登記を有しないから、第三者たる上告人に対抗できない、すなわち、本件の場合、上告人は登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたるというにある。

しかしながら、民法九四条が、その一項において相手方と通じてした虚偽の意思表示を無効としながら、その二項において右無効をもつて善意の第三者に対抗することができない旨規定しているゆえんは、外形を信頼した者の権利を保護し、もつて、取引の安全をはかることにあるから、この目的のためにかような外形を作り出した仮装行為者自身が、一般の取引における当事者に比して不利益を被ることのあるのは、当然の結果といわなければならない。したがつて、いやしくも、自ら仮装行為をした者が、かような外形を除去しない間に、善意の第三者がその外形を信頼して取引関係に入つた場合においては、その取引から生ずる物権変動について、登記が第三者に対する要件とされているときでも、右仮装行為者としては、右第三者の登記の欠缺を主張して、該物権変動の効果を否定することはできないものと解すべきである。この理は、本件の如く、民法九四条二項を類推適用すべき場合においても同様であつて、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人らは、被上告人山泉真也が本件不動産について所有権取得登記を経由していないことを理由として、同人らのこれに対する所有権の取得を否定することはできないものというべきである。したがつて、これと同旨の原判決は正当であつて、論旨は採用できない。

上告代理人斉藤孝知の上告理由第一点について。

事件の差戻を受けた第一審裁判所がこれを差し戻した控訴裁判所の判断に拘束されるのは、右控訴審判決の理由中に示された一審判決の破棄理由に止まり、それ以外の点については何らの拘束を受けるものではないから、差戻後の第一審裁判所が差戻前の第一審判決と異なる認定または判断をなしうることは当然である。その理は、控訴審判決が差戻前の第一審の訴訟手続に関する法令違背のみを理由として事件を第一審裁判所に差し戻した場合も同様である。所論は、独自の見解で採用できない。

同第四点について。

記録に顕れた原審の審理の経過に照らせば、原審が口頭弁論を再開しなかつたのは相当であつて、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(飯村義美 田中二郎 下村三郎 松本正雄 関根小郷)

上告代理人野田孝明、同山本進一、同山崎賢一の上告理由

<前略>

第二点 原判決にはその理由に著しい不備、齟齬があります。

第一 一、仮に原判決認定の通り本件土地競落当時の法律関係が虚偽表示だとしても、これから約三ヶ月を経た大正一五年五月一五日に到つて、友太郎、ケサ間には、競落代金の返済されるまで、本件土地の所有登記はケサ名義に保留するという契約が成立して居ることは、原判決が明らかに認定しておる事実であります。

二、このことは第一点の六及七項で述べた通り当初の虚偽表示の撤回であり、これによつて右当事者間には、競落代金が友太郎から返済されるまで、その履行の担保として本件土地の登記名義をケサに保留しておく旨の新な担保契約が有効に発生しておると解すべきであります。(昭和一三年三月八日、大審院民事第二部、昭和一二年(オ)第一七〇二号事件判決、民集一七巻四号三六七頁参照)

三、このような法律関係について、原判決はその事実を認定し乍ら、之に対して何等の判断理由も示さず依然として当初の虚偽表示の理論を類推固持して居ります。

事実、虚偽表示の撤回がなされ、新たに担保的機能に変更されたケサ名義の所有権登記が、それでも尚虚偽表示だとする理論的根拠並にその経過については全くふれず、漫然、看過して居ることは、理由の不備、齟齬といはずして、なんでありましようか、多言を用いないところであります。

四、然も右のように変更された担保的機能が一六年の永きに渉つて継続した法律関係を、単に競落当時のみの事実に捉はれて、尚虚偽表示として、当事者参加人は之を信じた善意の第三者と解して居るところでありますが、左様に保護に値する法律上の地位についての判断も亦、全く示されて居りません、この点、上告人は前項同様の主張を致します。

五、原判決には、訴外株式会社日本勧業銀行から訴外株式会社土予銀行に譲渡された抵当債権の目的物件の一部である本件土地を、当事者参加人が買受けた昭和一六年八月二〇日において、その所有者である向鶴治から買受けたものと、明らかに判示されて居ります。(一審判決理由(五)中断、同判決書五十頁二行目参照)然し本件土地の外、右抵当目的物件中に向鶴治所有の土地があつたのならば格別、左様な事実の全くない本件について、さきに本件土地の実質的所有者は岡本友太郎であると認定し乍ら、それがいつの間に如何なる法律関係によつて鶴治となつたのかを全然説示せず、全く突如として、鶴治の所有と認定されて居るのは、どうしたわけなのか、その理由は皆目明らかにされて居ません。

六、若し本件土地が右売買当時鶴治の所有であつたとすれば、どうして虚偽表示となるのでせうか、真実の所有者が友太郎であればこそ、登記名義人が向ケサである事実から(註、原判決はこの点についても、その登記名義人はいまだ明らかに向ケサであるのに之を向鶴治所有名義の本件土地と認定し明白な事実誤認をして居ます、一審判決書四十九頁、終りから二行目)虚偽表示の疑をもち之を類推解釈するに到つたと解する外ありませんが、この点については、多言を用ひるまでもなく、前後矛盾しその理由が齟齬して居ること極めて明白であります。

第二 一、今一点は、被上告人たる当事者参加人が本件土地について所有権取得登記を経て居ないので、真実の所有者である上告人等に対し、その所有権取得を対抗し得ないとする上告人等の主張について、原判決では上告人等は当事者参加人の登記欠缺を主張するについて正当の利益をもたないものであるから、当事者参加人としては上告人等に対抗し得る旨を判示したことについて、その理由に不備齟齬を有して居ることを主張します。

二、原判決が右のように認定したのは、既にしばしば述べた通り、誤解にもとづく無理な虚偽表示の理論構成にかかづらつた故でありましようが、到底首肯出来ません。

上告人等は本件土地の実体上の所有者としてその所有権にもとづき、本件土地の登記名義移転の請求をなす正当な利益を有すると解するものでありますが、原判決では上告人等を虚偽表示の当事者と判断して居るので、この点は暫らくおき、原判決で明らかにしている如く、友太郎において競落代金を返済すればケサの登記名義を友太郎に移転する契約が爾後(大正一五年五月一五日)に成立して居ることは明らかな事実であります。

三、従つて該契約にもとづき、友太郎及びその相続人たる上告人等は、将来右競落代金に充てた債務を弁済したときは、移転登記を求め得る期待権を有して居ると謂はなければなりません、これは将に上告人等において正当な利益でありますが、このことは原判決も認定し、いまだ競落代金の弁済が友太郎に於て履行された事蹟がないので、その請求の時期は到来してないと説示しております。

四、斯様な判断があり乍ら、上告人等はどうして正当な利益を有しないとするのか、その理由は之亦全く示されて居りません。

従来上告人等は、右の債務は昭和二年一一月二二日に完済した旨を主張し且つその立証をしましたが、原判決では不幸それが容れられて居ませんから、それはそれとしても、少くとも前述した契約により、将来移転登記を求める期待権を有して居ることは、原判決の説示自体から極めて明白であります。

五、原判決は、一にも二にも虚偽表示の判断にこだわつて、自ら判示した前記契約の存在を忘れて、上告人等の正当な利益を否定して居ります。若し右契約の存在事実を看過したものでないと謂ふならば、これがどうして正当な利益でないのか、上告人等は本件土地を当事者参加人が買受ける際に、右の期待利益を喪つたとされるのか、更には亦右契約はその後何等かの理由により解除されたとするのか、いづれ明にされなければならないのに、全く之を尽されてないことは原判決に明らかでありまして、理由の不備齟齬の著しい判決であることを、重ねて主張するものであります。

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